「生成AIを使ってみたいが、顧問先の情報を入れて大丈夫なのか分からない」。士業事務所で生成AIの話をすると、最初に出てくるのがこの不安です。税理士・社労士・行政書士・司法書士・弁護士には、それぞれの法律で秘密を守る義務があります。
この記事では、事務所で生成AIを使い始める前に決めておく 3 つのことを、ChatGPT・Claude・Gemini の実際の設定画面(2026 年 10 月)とあわせてまとめます。
この記事でわかること
- 入力内容を AI の学習に使わせない設定の場所(ChatGPT・Claude・Gemini)
- 設定で防げること・防げないこと
- 入れてはいけない情報と、置き換え方の例
- 事務所共通のプロンプトと、生成AI利用ルールのひな形
先に結論 — 事務所で決める 3 つのこと
| 決めること | 内容 |
|---|---|
| ① 学習させない設定 | 個人アカウントは「学習に使う」設定をオフに。法人プランは契約内容を確認 |
| ② 入れない情報 | 顧問先名・氏名・マイナンバー・口座番号・健康情報などは、置き換えてから入力 |
| ③ 共通のプロンプトとルール | 置き換えの書式を組み込んだプロンプトを事務所で配り、全員が同じものを使う |
なぜ士業事務所は特に気をつけるのか
士業には、それぞれの法律で秘密を守る義務があります。
| 資格 | 根拠 |
|---|---|
| 税理士 | 税理士法 第 38 条(秘密を守る義務) |
| 社会保険労務士 | 社会保険労務士法 第 21 条(秘密を守る義務) |
| 行政書士 | 行政書士法 第 12 条(秘密を守る義務) |
| 司法書士 | 司法書士法 第 24 条(秘密保持の義務) |
| 弁護士 | 弁護士法 第 23 条(秘密保持の権利及び義務) |
生成AIのサービスに文章を入力すると、その内容は事務所の外のサーバーに送られます。学習に使われるかどうかとは別に、外部のサービスに顧客の情報を渡すことになる点を押さえておく必要があります。
① 学習させない設定を確認する
個人向けのアカウントでは、入力内容が AI の改善(学習)に使われる設定が初めからオンになっていることがあります。事務所で使う前に、必ず確認します。
ChatGPT
「設定 > データコントロール」の 「モデル改善に協力する」 をオフにします。

あわせて知っておきたいのが次の 2 点です(OpenAI のヘルプより)。
- 一時チャットは、履歴に残らず、学習にも使われない。ただし安全のため最大 30 日間保存される
- 回答に 👍👎 の評価を送ると、その会話は学習をオフにしていても学習に使われることがある。事務所では評価ボタンを押さないルールにしておく
Claude
「設定 > プライバシー」の環境設定にある 「Help improve our AI models」 をオフにします(日本語の画面でも、この項目は英語で表示されていました)。

Gemini
Google の「マイ アクティビティ」にある 「Gemini アプリ アクティビティ」 で、「アクティビティの保存」をオフにします。

画面に書かれているとおり、オフにしてもチャットは 72 時間保存されます。
法人向けプランの場合
ChatGPT・Claude の法人向けプランや、Google Workspace・Microsoft 365 の法人アカウントで使う Gemini・Copilot は、入力内容を学習に使わない契約になっているものが多くあります。プランや契約によって違うので、事務所で使うアカウントの契約内容(データの扱い)を一度確認してください。
② 入れてはいけない情報を決め、置き換えて入力する
生成AIに頼む作業の多くは、固有名詞がなくてもできます。「誰の」話かではなく「どんな状況の」話かが分かれば、文面の下書きや要約は作れます。
入れない情報の例
| 種類 | 例 | 置き換え方 |
|---|---|---|
| 顧客・顧問先の名前 | 会社名、氏名 | 〔顧問先A〕〔Bさん〕 |
| 番号 | マイナンバー、基礎年金番号、口座番号、登記識別情報 | 入れない(必要なら〔番号〕) |
| 住所・所在地 | 住所、不動産の所在・地番 | 〔東京都内〕〔物件1〕 |
| 機微な情報 | 健康状態、家族の事情、在留資格 | 判断に必要な事実だけを一般的な言葉で |
| 金額 | 具体的な売上・報酬 | 必要なら概数か比率で |
置き換えの例
置き換え前(入力しない):
株式会社〇〇(代表 山田太郎)の 9 月の売上が 1,234 万円で前年比 82%。社長から「資金繰りが不安」と相談があった。
置き換え後(入力してよい形):
〔顧問先A〕(飲食業・従業員 10 人)の売上が前年同月比で約 2 割減。経営者から資金繰りが不安だと相談があった。
これだけで、返信の下書きや論点の整理には十分です。
③ 事務所共通のプロンプトとルールを決める
置き換えのルールを決めても、職員一人ひとりが自分で考えたプロンプトを使っていると、守られているかどうかが分かりません。置き換えの書式を最初から組み込んだプロンプトを事務所で用意し、全員が同じものを使うのが確実です。
置き換えを組み込んだプロンプトの例
※入力前に: 顧問先名・氏名・番号・住所は〔顧問先A〕〔Bさん〕〔番号〕のように置き換えてから貼り付けてください。
あなたは士業事務所の職員の文面作成を手伝うアシスタントです。次の相談に対する返信メールの下書きを作ってください。
<question>
{相談の内容(置き換え済み)}
</question>
<our_answer>
{担当者が考えている回答の方向性}
</our_answer>
<rules>
- 〔 〕で置き換えた部分は、そのまま〔 〕のまま残してください。推測で名前や数字を補わないでください。
- 法令の解釈は断定せず、確認が必要な点を分けて示してください。
- これは資格者が確認する前の下書きです。
</rules>士業別のプロンプト集は、税理士・社労士・行政書士・司法書士・弁護士の各記事にまとめています。
生成AI利用ルールのひな形
事務所の規程や職員向けの説明に使える、短いルールのひな形です。事務所の実情に合わせて直してください。
【{事務所名} 生成AI利用ルール】{制定日}
1. 使ってよいサービス
・{例: 事務所契約の ChatGPT(法人プラン)、Claude(法人プラン)}
・個人のアカウントを業務に使う場合は、入力内容を学習に使う設定(ChatGPT の「モデル改善に協力する」など)をオフにしたうえで所長の了承を得る
2. 入力しない情報
・顧客・顧問先の名前、氏名、住所、マイナンバー、口座番号、健康に関する情報
・必要な場合は〔顧問先A〕〔Bさん〕のように置き換えてから入力する
3. 使い方
・事務所が用意したプロンプトを使う(共有ボードから呼び出す)
・回答に評価(👍👎)を送らない
・出力は下書きとして扱い、資格者が確認してから顧客に出す
4. 困ったとき
・誤って入力してしまった場合は、すぐに{連絡先}へ報告するまとめ
- 個人アカウントは、入力内容を学習に使う設定をオフに。ChatGPT は「モデル改善に協力する」、Claude は「Help improve our AI models」、Gemini は「アクティビティの保存」
- 設定で防げるのは学習だけ。入力した内容は外部に送られ、一定期間保存される
- 顧問先名・氏名・番号は置き換えて入力する。置き換えの書式を組み込んだプロンプトを事務所で配り、全員が同じものを使う